
IPOの準備における流れ。必要な期間の目安とは
IPO(Initial Public Offering:新規公開株式)とは、これまで少数の株主に限定されていた未上場企業の株式を証券取引所に上場して、一般の投資家に株式を公開することを指します。
企業にとってIPOは大きな成長機会になると同時に、経営の透明性や社会的信用を高めるための重要なプロセスとなります。ただし、IPOには財務体制の整備や内部統制の確立までさまざまな準備が必要です。
特に近年は、コーポレートガバナンスの強化や情報開示の充実などの上場企業に求められる要件が厳格化しており、計画的な準備がより一層重要となっています。
この記事では、IPOの準備に必要な期間の目安と、株式上場の各フェーズで求められる主な準備事項について解説します。
目次[非表示]
- 1.IPOにおける準備期間の目安
- 2.IPOを実施する流れ
- 2.1.N-3期|直前々々年度以前
- 2.2.N-2期|直前々年度
- 2.3.N-1期|前年度
- 2.4.N期|申請期
- 3.IPOの実現には“IT統制”が必要
- 4.まとめ
IPOにおける準備期間の目安
IPOの実施には、一般的に3年程度の準備期間を要します。これは、上場申請時に“直前2期分の監査証明”を提出する必要があるほか、最低1年間の経営管理体制が審査されるためです。
監査証明とは、財務諸表が適正に作成されていることを監査法人が証明するもので、厳格な会計管理と内部統制の整備が求められます。
なお、IPOの準備期間は、申請期(N期)を基準としてN-1期・N-2期・N-3期と区別して呼ぶこともあります。この期間は、段階的に上場企業としての体制を整えていくための重要なプロセスとなります。
▼IPOの準備期間
期間 |
概要 |
N-3期 |
申請期の前々々年度以前(直前々々期) |
N-2期 |
申請期の前々年度(直前々期) |
N-1期 |
申請期の前年度(直前期) |
N期 |
申請期 |
各期で必要な準備事項は異なりますが、一つひとつの手続きや審査をクリアしていくことで着実に上場への道を進めるようになります。
IPOを実施する流れ
証券取引所の上場審査をスムーズに通過するには、綿密なスケジュール管理を行い、計画的に準備を進めることが大切です。
N-3期|直前々々年度以前
N-3期は、上場に向けた土台づくりに重要な時期となります。社内のプロジェクトチームを設置するとともに、監査法人や主幹事証券会社を選定して具体的な計画を策定します。
▼N-3期の主な準備事項
- 事業計画・資本政策の策定
- 監査法人によるショートレビュー(予備調査・短期調査)
- 主幹事証券会社の選定
上場審査では、企業に対して「中長期の成長が見込めるか」「目標の実現可能性があるか」などが精査されます。自社が目指す方向性や成長戦略を具体的に示すために、経営理念・ビジョンと整合性のある合理的な事業計画・資本政策を策定する必要があります。
また、監査法人によるショートレビューを実施して、上場に向けた現状課題を把握することも欠かせません。会計処理や内部統制などに関する課題を明らかにすることで、必要な改善策の方向性が見えてきます。
主幹事証券会社は、IPOの準備や進捗管理の中心的な役割を担う証券会社のことです。上場までの道のりを支援してくれる重要なパートナーとなるため、業界の実績や提供サービスなどを総合的に判断して選定します。
なお、IPOの準備には、会計や法律などに関する専門的な知識が求められます。上場審査をスムーズに通過するには、経験豊富なIPOコンサルタントに依頼することが有効です。
N-2期|直前々年度
N-2期は、上場に向けた本格的な体制整備のフェーズとなります。この時期には、前期までに策定した計画に基づいて、経営管理体制の整備に向けた具体的なアクションに移していく必要があります。
▼N-2期の主な準備事項
- 利益管理制度の構築
- 会計管理制度の構築
- 業務運営体制の整備
- 組織運営体制の整備
- 関係会社の整備
- 特別利害関係者等取引解消
- 内部統制報告制度(J-SOX)への対応
N-2期からは監査法人による会計監査が開始されるため、中期事業計画を策定して予実管理や会計管理を適正に行える社内制度を構築する必要があります。
また、社内規定・マニュアルの整備やITシステムの導入などを通じて、各種法令・基準に沿った組織的な事業活動を行える業務運営体制の整備を進めます。さらに、取締役会の実施や監査役会の設置、各種委員会の設立など、経営の透明性・健全性を確保するための組織運営体制の整備も欠かせません。
そのほか、関連会社の統廃合・売却や利益相反が発生する特別利害関係者との取引の解消、不正会計の防止に向けたJ-SOXの対応などが必要です。
N-1期|前年度
N-1期は、上場申請に向けた最終準備期間となります。主幹事証券会社による審査が開始されるため、これまでに整備してきた各種体制の運用実績を積み上げながら、具体的な申請準備を進めていきます。
▼N-1期の主な準備項目
- 上場申請書類の作成
- 経営管理体制の運用
- IR活動(投資家に対する広報活動)
上場申請には、有価証券報告書をはじめとするさまざまな書類が必要となります。これらの書類作成は、証券印刷会社のサポートを受けることが一般的です。
また、N-2期で定めた経営管理体制の運用を開始します。監査法人と主幹事証券会社の助言・指導を受けながら、改善点・不備の改善を図ることが求められます。
さらに、投資家からの高い評価を得るために欠かせない準備がIR活動です。投資家は、IR活動で発信した財務データや成長戦略などの情報を基に、企業価値を判断するため、分かりやすく透明性のある広報資料の作成が必要です。
N期|申請期
いよいよIPOの準備で最後のフェーズとなります。この時期には、これまでの準備の成果が試されることになります。
▼申請期の準備事項
- 主幹事証券会社による引受審査への対応
- 証券取引所への上場審査への対応
上場申請を行う前に、主幹事証券会社による引受審査を受けます。事業の成長性や健全性、経営管理体制、内部統制などが厳しく精査され、質問書が提出された場合には回答する必要があります。
次に証券取引所へ書類を提出して上場申請を行います。この審査では、形式基準への適合性に加えて、事業の継続性・収益性、コーポレートガバナンスの状況、内部管理体制の整備状況など、さまざまな観点から総合的な判断が下されます。
なお、最終的な上場承認を得たあとは、株式公開に向けて投資家への説明会(ロードショー)を行います。上場後の安定した株価形成のためにも、丁寧な説明と対話を心がけることが欠かせません。
IPOの実現には“IT統制”が必要
IPOを目指す企業にとって、IT統制の整備は避けて通れない課題です。IT統制とは、企業のITシステムやデータの信頼性を確保するための仕組みを指します。
IPOの上場審査に通過するには、適正な内部統制が求められます。そのうちIT統制は、内部統制を有効に機能させるための重要な位置づけとなっており、内部統制監査においてもIT全般統制・IT業務処理統制の有効性が詳細に精査されます。
企業活動でITの利活用が不可欠となった今、システムの不具合やセキュリティ上のインシデントによる企業へのリスクが増加しています。IT統制を確立してシステムの安全性を確保することは、財務報告の信頼性にも直結すると考えられています。
IT統制を確立するための具体的な取り組みは、大きく2つに分けられます。
▼IT統制に関する取り組み
IT統制の内容 |
取り組み |
IT全般統制 |
システムの開発・保守管理
システムの運用管理
社内外からのアクセス管理
外部委託時の契約管理
|
IT業務処理統制 |
入力情報の統制
例外処理(エラー)の修正と再処理
マスターデータの維持管理
認証やアクセス制限の管理
|
IT全般統制では、全社的な方針や手順書を整備することが重要です。情報セキュリティポリシーの策定やシステム利用規定の整備などを通じて、組織全体でITリスクへの対策を強化します。
IT業務処理統制では、実際に業務で使用するシステム・データについて、不正な処理や改ざんを防いで適正に管理できる仕組みを整備することが求められます。
なお、IT統制の整備には、情報システム部門だけでなく経理部門や内部監査部門などの関連部署との密接な連携が欠かせません。IT統制の必要性を組織全体で認識して、計画的に整備を進めていくことがIPO成功のカギとなります。
IT統制の進め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
出典:金融庁『財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)』
まとめ
この記事では、IPOの準備について以下の内容を解説しました。
- IPOにおける準備期間の目安
- IPOを実施する流れ
- IPOの実施におけるIT統制の必要性
IPOを実施するにあたっては、財務体制や内部統制などが厳しく精査され、上場企業としての健全かつ効率的な経営管理を行えているかが重視されます。
なかでも内部統制を有効に機能させて財務情報の信頼性を確保するには、IT統制の整備が重要となります。IPOの実現に向けて、社内のITシステムやデータの管理体制を強化したい方は、IT分野において知識・ノウハウを有する専門会社に依頼することも一つの方法です。
『FGLテクノソリューションズ』の社内システム運用管理サービスでは、ITインフラの運用管理に関するさまざまなサポートを行っております。IPOコンサルタントや監査法人が指示・指摘したIT統制の課題に対して、各種規定の策定からシステムの導入、運用管理まで支援することが可能です。
詳しくは、こちらの資料をご確認ください。