
ハイブリッドワークとは。必要なICT環境を整備するポイント
近年、働く人のワークライフバランスが重視されており、働き方のニーズや価値観が多様化しています。そうしたなか、柔軟性のある新たな働き方として“ハイブリッドワーク”が注目されています。
情報システム部門(以下、情シス)や管理部門の担当者は、安全かつ快適に業務を遂行できるICT環境を整備することが重要です。
この記事では、ハイブリッドワークの導入効果や注意点、必要なICT環境を整備するポイントについて解説します。
目次[非表示]
- 1.ハイブリッドワークとは
- 2.ハイブリッドワークに求められる環境
- 3.ハイブリッドワークを導入する効果
- 4.ハイブリッドワークを導入する際の注意点
- 4.1.勤怠や作業状況の把握が難しい
- 4.2.シャドーITが発生しやすい
- 4.3.セキュリティ上のリスクがある
- 5.ハイブリッドワークに必要なICT環境を整備するポイント
- 5.1.➀PCやアプリの監視ツールを導入する
- 5.2.②クラウドサービスやモバイル端末を一元管理する
- 5.3.③クラウドセキュリティを強化する
- 5.4.④円滑に業務を行える環境の整備
- 6.まとめ
ハイブリッドワークとは
ハイブリッドワークとは、出社して仕事をする“オフィスワーク”と、自宅やコワーキングスペースなどのオフィス以外の場所で仕事をする“テレワーク”を組み合わせた働き方です。
コロナ禍で広く普及したテレワークは、生産性の向上や通勤ストレスの軽減などのよい効果をもたらしました。一方で、テレワークによる社内コミュニケーションの希薄化や長時間労働、従業員の運動不足などの問題が見られたことから、オフィスに出社する意義が改めて認識されました。
このような背景から、オフィスワークならではのメリットも残しつつ、個々の事情に合わせた柔軟な働き方ができるハイブリッドワークが拡大しています。
国土交通省の『令和5年度のテレワーク人口実態調査結果』に関する公表資料によると、週1~4日にテレワークを実施する割合が増えています。
▼テレワークの実施頻度(直近1年間の雇用型テレワーカー)
画像引用元:国土交通省『テレワーカーの割合は減少、出社と組み合わせるハイブリットワークが拡大』
週5~7にテレワークを実施する人はわずか17.7%にとどまっており、ハイブリッドワークが拡大傾向にあることが分かります。
出典:国土交通省『テレワーカーの割合は減少、出社と組み合わせるハイブリットワークが拡大』
ハイブリッドワークに求められる環境
ハイブリッドワークを導入するには、オフィスとテレワークのどちらでも円滑に業務を行える環境を整備する必要があります。
▼ハイブリッドワークの実現に必要な環境
環境 |
求められること |
オフィス環境 |
固定席をなくしたフリーアドレス制や、目的別に利用できる多目的スペース、個室ブース、コミュニケーションを取りやすいスペースなどの設置 |
ICT環境 |
オフィス外でも業務を行えるクラウドサービスやワークフローシステムの導入、モバイル端末の貸与など |
コミュニケーションの手段 |
業務連絡や勤怠報告を行えるチャットツール、オンライン会議ができるWeb会議システムの導入など |
フリーアドレスへ移行すると、従業員が業務内容や予定に合わせて働く場所を柔軟に選べるほか、固定席のスペースをほかの目的に使うことが可能です。
また、テレワークを実現するには、業務システムのクラウド移行やワークフローシステムによるペーパーレス化、オンラインでのやり取りができるコミュニケーションツールなども必要です。ほかにも、リアルで対面できる機会が少なくなるため、出社時に対面コミュニケーションが取りやすいスペースも求められます。
ハイブリッドワークを導入する効果
ハイブリッドワークは、従業員のパフォーマンスやオフィスの価値向上などによい影響をもたらします。
▼導入効果
- 業務パフォーマンスの向上
- ワークライフバランスの向上
- オフィススペースの最適化 など
業務の内容やその日の気分に合わせて働く場所を選べることにより、従業員が集中力を維持しやすくなったり、新たなアイデアが生まれたりする可能性があります。業務パフォーマンスが高まることで、生産性の向上につながります。
また、従業員の事情に応じて働き方を選択できるようになると、ワークライフバランスが向上します。これにより、従業員の満足度や仕事のモチベーションも高まると期待されます。
さらに、オフィス内の固定席を廃止して、従業員のリフレッシュやコミュニケーションの活性化を促進するスペースを新たに導入することが可能です。これにより、スペースを最適化できるほか、オフィスの付加価値によって従業員エンゲージメントの向上を図れます。
ハイブリッドワークを導入する際の注意点
柔軟かつ効率的な働き方を実現するハイブリッドワークですが、従業員の勤怠管理やセキュリティの面でいくつか注意点があります。
勤怠や作業状況の把握が難しい
ハイブリッドワークによって従業員が働く場所を選択できるようになると、管理者が勤怠や作業状況を把握することが難しくなります。
オフィスに出社する場合でも、フリーアドレスでは「誰がどこで作業しているか分からない」「出社率を確認できない」といった状態になることも考えられます。
これにより、給与計算や労務管理に間違いが生じたり、仕事のパフォーマンスに対する適正な評価ができなくなったりする可能性があります。
シャドーITが発生しやすい
オフィス外での業務が可能になることで、シャドーITが発生しやすくなります。シャドーITは、情シスや管理部門が許可していない状態で使用される、従業員の私物端末やアプリケーション(以下、アプリ)を指します。
セキュリティ対策が不十分な端末やアプリを未許可で使用されると、情報漏えい、内部不正、マルウェア感染などのさまざまなリスクが懸念されます。
シャドーITの原因やリスクについてはこちらの記事をご確認ください。
セキュリティ上のリスクがある
ハイブリッドワークを導入すると、社外の端末から社内ネットワークにアクセスしたり、社外ネットワークを経由してクラウドサービスを利用したりする機会が発生するため、さまざまなセキュリティ上のリスクが生じます。
▼セキュリティ上のリスク例
- クラウドサービスへのサイバー攻撃によるデータの窃取・改ざん
- 通信の盗聴による情報漏えい
- マルウェアに感染した社外端末から社内ネットワークへの拡散 など
このようなリスクを避けるには、社内・社外ネットワークの境界を設けずに、外部と接続するすべてのポイントでセキュリティ対策を行うことが必要です。
なお、クラウドサービスのセキュリティリスクはこちらの記事をご確認ください。
ハイブリッドワークに必要なICT環境を整備するポイント
ハイブリッドワークの実現に向けてICT環境を整備する際は、前述した注意点を踏まえて管理体制の整備やセキュリティ対策を行うことがポイントです。
➀PCやアプリの監視ツールを導入する
従業員の勤怠や作業状況を可視化して管理するために、PC・アプリの監視ツールを導入する方法があります。監視ツールによって取得できる情報は異なりますが、主に以下が挙げられます。
▼監視ツールで取得できる主な情報
- PCの起動ログ・操作ログ
- ブラウザのアクセス履歴
- 画面のキャプチャ
- アプリケーションの起動・使用状況 など
監視ツールの導入によって業務に関係のないWebサイトやアプリを使用していないか確認できるため、セキュリティ管理にも役立てられます。
監視ツールの詳細はこちらの記事をご確認ください。
②クラウドサービスやモバイル端末を一元管理する
シャドーITを防ぐには、使用するクラウドサービスやモバイル端末を一元管理できる体制を整備する必要があります。
従業員数が多くなるほどIT資産の把握やセキュリティポリシーの適用が煩雑化しやすいため、ツールを活用することが有効です。
▼クラウドサービスやモバイル端末の管理に活用できるツール
ツール |
概要 |
SaaS管理ツール |
複数のSaaS製品を一元管理して、使用状況の確認やアカウントの管理、セキュリティ機能の設定などを行える |
MDM |
モバイル端末を一元管理して、アプリの一括適用やログの取得、遠隔でのロック・データ消去などを行える |
MAM |
モバイル端末内のアプリを一元管理して、使用許可設定やアクセス制限、データの保護、遠隔消去などを行える |
SaaS管理ツールについてはこちらの記事をご確認ください。
③クラウドセキュリティを強化する
クラウドサービスの利用時には、外部からのサイバー攻撃やセキュリティ設定のミスなどによる情報漏えい、不正アクセスなどを防ぐための対策が欠かせません。
▼クラウドセキュリティの強化方法
- シングルサインオン(SSO)(※)の導入
- 通信・保存時のデータ暗号化
- アカウントへの多要素認証(MFA)の適用
- クライアントVPNの廃止とゼロトラストネットワークアクセスへの移行 など
また、複数のクラウドサービスに対して自社のセキュリティポリシーに沿った認証設定やアクセス制御を効率的に行うには、CASBツールの活用が有効です。
CASBツールには、クラウドサービスの利用状況を可視化してアクセスを監視・制御する機能が搭載されており、サイバー攻撃やシャドーITなどを防止できます。
※1つのID・パスワードで複数のクラウドサービスにログインできる認証技術
④円滑に業務を行える環境の整備
セキュリティ対策だけでなく、円滑に業務を行える環境の整備も必要です。
オフィスワークとテレワークを柔軟に選択でき、チームでの連携や情報共有をスムーズに進められるようにすることがポイントです。
▼ハイブリッドワークを円滑化する環境づくり
- 在席確認システムの導入による従業員の位置共有
- クラウドサービスによる業務のデジタル化とペーパーレス化の推進 など
まとめ
この記事では、ハイブリッドワークについて以下の内容を解説しました。
- ハイブリッドワークの概要
- ハイブリッドワークに求められる環境
- ハイブリッドワークを導入する効果
- ハイブリッドワークを導入する際の注意点
- ICT環境を整備するポイント
柔軟に働く場所を選べるハイブリッドワークは、従業員のパフォーマンスやワークライフバランスの向上、オフィススペースの最適化などのメリットがあります。
ICT環境を整備する際は、勤怠・作業状況を管理できる体制を整備するとともに、モバイル端末やクラウドサービスの利用に関するセキュリティ対策を強化することが重要です。
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