
Microsoft Entra ID P1とは。導入前に知っておくべきポイントやP2との違い
Microsoft 365やMicrosoft Azureを活用する企業にとって、ID管理やアクセス制御はセキュリティ強化と業務効率化の要となります。
その中核を担うのが「Microsoft Entra ID」(旧Azure Active Directory)です。特に大企業・中規模企業では「Microsoft Entra ID P1」プランを導入するケースが増えていますが、P2やFreeとの違いを理解しなければ、適切な選択はできません。
この記事では、Microsoft Entra ID P1の説明や主な機能、P2との比較、導入方法や注意点、さらに具体的な活用例を詳しく解説します。
※本記事の内容は2025/9/25時点で公開されている情報をもとにしています。
目次[非表示]
Microsoft Entra ID P1とは
Microsoft Entra ID P1とは、Microsoftが提供するクラウドベースのIDおよびアクセス管理サービスの有料プランの一つです。旧称は「Azure Active Directory Premium P1」であり、2023年10月に名称が変更されました。
Freeプランに比べて、エンタープライズ向けに強化された機能を提供し、企業全体でのセキュリティ強化や利便性向上を支援します。具体的には、P1プランを導入することで以下のようなサービスを利用できます。
高度なアクセス制御:条件付きアクセスやグループベースの管理機能を利用可能。
SaaSアプリとの統合:幅広く多数の外部アプリとシングルサインオン(SSO)を実現。
従業員の生産性向上:オンプレミスやクラウドを問わず、統一されたIDでスムーズにログイン可能。
セキュリティリスク低減:多要素認証(MFA)やゼロトラストセキュリティモデルの基盤を構築。
これにより、オンプレミスとクラウドをまたぐ複雑な環境においても、ユーザー体験を損なわずにセキュリティを担保できます。特にリモートワークやハイブリッドワークの普及に伴い、Microsoft Entra ID P1の重要性は増しています。
Microsoft Entra ID P1の主な機能
Microsoft Entra ID P1の代表的な機能は、企業の「利便性」と「安全性」を両立させる設計になっています。
条件付きアクセス
特定のユーザーやデバイス、アプリの利用状況に応じて、アクセスを制御できます。例えば社外ネットワークからのログインには多要素認証を必須化するといった柔軟なポリシー設計が可能です。
グループベースのアクセス管理
ユーザーをグループ単位で管理でき、アプリやリソースの権限付与を効率化します。大規模組織において、IT部門の運用負荷を大きく軽減します。
シングルサインオン(SSO)
Office 365はもちろん、多数のSaaSアプリケーションとの統合が可能です。ユーザーは一度のログインで複数のサービスを利用でき、利便性が大幅に向上します。
ハイブリッドID統合
オンプレミスのActive Directoryとの連携により、オンプレミスとクラウドの環境をシームレスに統合。移行期の企業でも導入しやすいのが特徴です。
監査ログとセキュリティレポート
利用状況やアクセス履歴を追跡可能で、不審な動きを早期に発見できます。
これらの機能を通じて、Microsoft Entra ID P1は単なる「ID管理」を超え、企業のセキュリティ戦略としても活用できます。
Microsoft Entra ID P1、P2、Freeの違い
Microsoft Entra IDには「Free」「P1」「P2」という3つのプランが存在します。それぞれの違いを理解することは、導入前の検討で非常に重要です。
▼プラン表
主な機能 | 想定利用規模 | 価格(参考) | |
Free | 基本的な認証、Microsoft 365統合 | 小規模 | 無料 |
P1 | 条件付きアクセス、SSO、グループ管理、監査ログ | 中堅~大企業 | ¥899/ユーザー/月 |
P2 | P1機能+特権ID管理、リスクベース制御、IDガバナンス | 大企業・高セキュリティ要件企業 | ¥1,349/ユーザー/月(年契約ベース) |
※2025年9月時点でのMicrosoft公式情報に基づく
Freeプラン
ユーザー認証やMicrosoft 365との基本的な連携が中心で、比較的小規模な企業に向いています。
P1プラン
条件付きアクセスやSSO、グループ管理などを備えており、企業全体を効率的に統合管理できるのが特徴です。
P2プラン
P1の全機能に加えて、リスクベースの条件付きアクセスや特権ID管理(PIM)など、より高度なセキュリティ・ガバナンス機能を備えています。
特にP2はコンプライアンス対応や厳格なセキュリティ管理が求められる業種(金融・公共など)に適しています。一方で、コストと必要性のバランスを考えると、企業ではまずP1が選択肢となるケースが多いです。
Microsoft Entra ID P1の導入方法
Microsoft Entra ID P1を導入するには、まず企業が利用しているMicrosoft 365またはAzure環境にライセンスを追加する必要があります。
1.ライセンスの購入
Microsoft 365管理センターまたは認定リセラーを通じて、P1ライセンスを契約します。P1は「単体購入」または「Microsoft 365 E3以上のプラン」に含まれる形で提供されています。
2.ライセンス割り当て
購入後、管理者が対象となるユーザーに対してP1ライセンスを割り当てます。利用者全員に割り当てるのか、特定部門のみに導入するのかは、企業のポリシーに応じて調整可能です。
3.環境設定と構成
条件付きアクセスやSSO設定、オンプレミスADとの同期(Azure AD Connect)などを行います。導入初期段階では「パイロット導入」として一部ユーザーで検証を行うと安全です。
4.テストと展開
アクセス制御やMFAが正しく動作するかを確認した上で、段階的に展開を進めます。特にリモートワーク環境では、ユーザーに混乱を与えないよう周知と教育が必要です。
導入プロセスそのものは難しくありませんが、「どの機能をどの部門に適用するか」「既存システムとどう連携させるか」といった設計段階で専門的な知識が求められます。そのため、外部パートナーやMicrosoft認定パートナーの支援を活用するケースも見られます。
Microsoft Entra ID P1導入の注意点
Microsoft Entra ID P1の導入にあたっては、契約条件や導入後の管理体制を事前に理解しておく必要があります。ここでは特に重要な2点を解説します。
①契約の条件
P1ライセンスは、ユーザー単位で課金される「サブスクリプション型」です。価格はMicrosoft公式サイトやリセラー経由で公表されており、基本的には月額または年額での契約となります。注意点は以下になります。
全社導入か一部導入か
ユーザー単位での契約のため、導入規模を調整可能。ただしSSOや条件付きアクセスの一貫性を考慮すると、全社導入の方が効率的です。
Microsoft 365プランとの重複
Microsoft 365 E3/E5などの上位プランを利用している場合、すでにP1あるいはP2が含まれている可能性があります。追加契約が不要な場合もあるため、事前の確認が欠かせません。
コストを抑えつつ最大の効果を得るためには、自社の利用状況を棚卸しし、既存ライセンスとの重複を避けることが重要です。
②導入後の管理とメンテナンス
Microsoft Entra ID P1は導入して終わりではなく、運用管理こそが本質的な価値を左右します。
条件付きアクセスの見直し
一度設定したアクセス制御ポリシーも、業務環境の変化に応じて適宜更新が必要です。リモートワークの普及や新規アプリ導入に合わせ、ルールを柔軟に改定します。
ログ監視と監査
Microsoft Entra IDでは詳細な監査ログやサインイン履歴が取得可能です。不審な動きの早期発見や、インシデント発生時の原因追跡に活用できます。
ユーザー教育
MFAやSSOを導入することで利便性は高まりますが、ユーザーが新しい認証プロセスに慣れないと業務に支障をきたす可能性があります。IT部門だけでなく、従業員全体に向けた教育やFAQ整備が必要です。
定期的なヘルスチェック
Microsoftが提供する「Entra 管理センター」では、ポリシー適用状況やセキュリティリスクを可視化できます。定期的な確認により、潜在的な脆弱性を事前に防止できます。
P1導入後は「セキュリティ強化」と「利便性維持」のバランスをとる運用設計が成功のカギとなります。
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Microsoft Entra ID P1の活用例
導入効果を具体的に把握するために、P1の代表的な活用シーンを見ていきましょう。
多要素認証(MFA)
P1では、ユーザーごとや条件に応じて多要素認証を柔軟に適用できます。例えば「社外アクセス時はMFA必須」「特定アプリ利用時のみ追加認証」といった運用が可能です。
これにより、利便性を損なわずにセキュリティ強度を引き上げることができます。特にフィッシング攻撃や不正アクセス対策として有効であり、ゼロトラストセキュリティの基本要素にも位置付けられます。
シングルサインオン(SSO)
Microsoft Entra ID P1は、Microsoft 365をはじめ多数のSaaSアプリと統合でき、ユーザーは一度の認証で複数のサービスを利用可能です。
例えば、SalesforceやSlack、Boxなど、業務で日常的に利用するサービスを一括管理できます。パスワード入力の手間を減らすだけでなく、アカウント管理を集約することでセキュリティ面でも有利です。
ゼロトラストセキュリティ
Microsoft社が提唱するゼロトラストモデルは、「決して信頼せず、常に確認する」ことを原則としています。P1では条件付きアクセスや多要素認証を活用することで、ゼロトラストの実践を進められます。
従来の境界型セキュリティが限界を迎えつつあるなか、オンプレミスとクラウドを横断する企業環境においてはゼロトラストの考え方は重要です。P1はその第一歩を支える基盤となります。
まとめ
この記事では、Microsoft Entra ID P1について以下の内容を解説しました。
Microsoft Entra ID P1の主な機能、P2との違い
Microsoft Entra ID P1の導入方法
Microsoft Entra ID P1導入の注意点
Microsoft Entra ID P1の活用例
Microsoft Entra ID P1は、条件付きアクセス・MFA・SSO・監査ログといった機能を通じて、セキュリティと利便性を両立させる強力なID管理基盤です。FreeやP2との違いを理解したうえで、自社の規模や要件に合わせて選択することが成功の鍵となります。
ただし導入時には、契約条件の確認・段階的な展開・ユーザー教育・定期的な運用改善といったポイントを押さえることが重要です。成功事例・失敗事例が示すように、設計と運用を誤ると期待した効果が得られない可能性もあります。もし社内での導入や運用に不安がある場合は、外部の専門家や導入支援サービスを活用するのが効果的です。
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