
中小企業のIT予算策定|クラウド・セキュリティにどう配分するか
クラウド化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、企業のIT投資は年々多様化しています。中小企業にとっても、IT予算の立て方次第で業務効率や競争力に大きな差が生まれます。
しかし、何に、どれだけ予算を配分するかが不明確なまま、場当たり的に支出してしまうケースも少なくありません。特にクラウドやセキュリティ関連の投資は、見えにくいコストである一方、企業の信頼性を左右する重要分野です。
この記事では、中小企業が押さえたいIT予算の基本構造・課題・効果的な配分方法を分かりやすく解説します。
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目次[非表示]
- 1.IT予算の基本と内訳
- 1.1.一般的な項目
- 1.2.企業特性に応じたIT予算の考え方
- 2.IT予算編成の課題と失敗例
- 2.1.失敗例1:費用対効果が不明確
- 2.2.失敗例2:セキュリティ軽視
- 3.IT予算配分の考え方
- 3.1.クラウド・SaaSへの投資
- 3.2.DX・セキュリティ強化
- 4.まとめ
IT予算の基本と内訳
中小企業のIT予算は、単にシステム費用だけでなく、運用・保守・セキュリティ・教育といった幅広い要素を含みます。IT予算を明確に分類することで、投資のバランスを見直しやすくなり、将来的なコスト削減にもつながります。
一般的に、中小企業のIT投資は売上の1%程度が目安とされており、業種によっても配分が異なります。一般的に、IT予算は次の3つのカテゴリに分けて考えます。
基盤整備費用:PC、サーバー、ネットワーク、クラウド環境など。
業務システム費用:会計、人事、販売管理、CRMなどのソフトウェア。
運用・保守・セキュリティ費用:ライセンス更新、バックアップ、サポート契約、セキュリティ対策など。
このほか、教育・研修費や、社内DX推進のためのプロジェクト費用を独立して確保する企業も増えています。
一般的な項目
IT予算を構成する具体的な項目としては、以下が一般的です。
ハードウェア費用:PC、サーバー、ルーターなどの購入・リース
ソフトウェア費用:業務アプリケーションやライセンス更新
クラウド利用料:SaaS・IaaSなどの月額課金
セキュリティ関連費:UTM、EDR、バックアップ、脆弱性診断など
人件費・委託費:IT運用担当者や外部ベンダーへの委託コスト
教育・研修費:社員へのITリテラシー教育やセキュリティ研修
総務省の『令和7年版 情報通信白書』によると、企業のクラウド利用率は2024年時点で80.6%に達しており、特に業務効率化・テレワーク対応・セキュリティ強化を目的とした投資が増加しています。こうした傾向からも、クラウド・セキュリティ分野への予算配分は重要といえます。
出典:総務省『令和7年版 情報通信白書』
企業特性に応じたIT予算の考え方
企業規模や体制によって、IT予算の構成や優先順位は異なります。重要なのは、“自社の業務環境とリソースに合ったバランス”で予算を設計することです。
限られた人員や予算の中では、クラウドや外部委託サービスを活用して柔軟に運用する方法が有効です。これにより、初期投資を抑えつつ柔軟なシステム運用を実現できます。一方、リソースや専門人材を確保できる場合は、セキュリティやシステム開発を内製化し、長期的な競争力強化につなげる選択もあります。
いずれの場合も、“自社の強みと課題を踏まえて、外部活用と内製化の最適なバランスを取ること”が、IT予算を有効に活かす鍵となります。
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IT予算編成の課題と失敗例
IT予算を立てる際によくある課題は、何にどれだけ投資すればよいかが分からないという点です。経営層がITにあまり詳しくない場合は、費用対効果を定量的に把握できず、投資判断が遅れることもあります。
失敗例1:費用対効果が不明確
“導入したシステムの効果が見えにくい”と感じている企業は少なくありません。
原因の多くは、導入時にKPI(成果指標)を設定していないことにあります。例えば、業務時間を何%削減する、問い合わせ対応を〇件減らすなど、具体的な目標を立てないまま導入すると、結果を客観的に評価できなくなります。
また、ランニングコストの見通しを誤るケースもあります。クラウドサービスやSaaSは月額課金が主流ですが、ユーザー数増加や追加機能の利用によって、想定以上の費用が発生することも。
失敗例2:セキュリティ軽視
ランニングコストの削減を優先するあまり、セキュリティ投資が後回しになる場合があります。セキュリティ費用は“保険”ではなく、“経営のリスクヘッジ”として考えることが重要です。
情報漏えいの被害は年々増加しており、警視庁の『令和6年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』によると、ランサムウェア被害件数を前年(2023年)と比較して、大企業の被害件数は減少しましたが、中小企業の被害件数は 37%増加しました。中小企業は特に狙われやすく、一度のインシデントで事業継続が難しくなるケースもあります。
ファイアウォールやEDR(端末防御)の導入、従業員へのセキュリティ教育、定期的な脆弱性診断などを組み合わせ、段階的なセキュリティ強化を進めましょう。経済産業省の『サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0』でも、中小企業に対して“経営者自らがセキュリティ対策の指揮を執るべき”と明記されています。
出典:警視庁『令和6年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』/経済産業省『サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0』
IT予算配分の考え方
近年のIT予算は、クラウド・SaaS・セキュリティ関連の比率が急速に拡大しています。これらは単なるコストではなく、業務の柔軟性・スピード・信頼性を高めるための戦略的投資です。
自社の経営目標と現場の課題を踏まえ、限られた予算をどの分野にどう配分するかが、IT投資の成果を左右します。
クラウド・SaaSへの投資
クラウドサービスは、今や中小企業にとって必要なインフラといえます。
総務省『令和3年版 情報通信白書』によると、企業の約7割が何らかのクラウドを利用しています。主な目的は、コスト削減・業務効率化・リモート対応です。クラウドへの投資で意識したいポイントは次の3つです。
すべてを一度にクラウド化せず、重要度の低いシステムから段階的に移行する
リソース使用量やライセンス数などの利用量を定期的にモニタリングし、不要な契約や過剰なリソースを整理する。
クラウドベンダーの責任範囲(SLA)を確認し、自社でも不正アクセスや情報漏えいに備えた多層的なセキュリティ対策を行う。
クラウドは柔軟な拡張性を持つ反面、放置すると費用が膨らむため、運用ルールとガバナンス体制を整えることが重要です。
出典:総務省『令和3年版 情報通信白書|企業におけるクラウドサービスの利用動向』
クラウドの基本的な仕組みや導入のメリット・デメリットに関しては、こちらの記事で解説しています。
SaaSを利用する際のセキュリティリスクや対策については、こちらの記事で解説しています。
DX・セキュリティ強化
DXとセキュリティは、今後のIT予算配分で重視したい分野です。特に中小企業では、DX投資を進める際にセキュリティ対策が追いつかないケースが多く、攻めと守りの両立が課題となっています。
企業規模や売上高などにもよりますが、予算配分としては、DX推進費とセキュリティ費をそれぞれ全体の20〜30%程度確保するのが目安のひとつです。このうち、セキュリティ分野ではEDR・SOC・多要素認証の導入を優先することが理想です。
また、従業員教育も忘れてはいけません。人為的ミスによる情報漏えいを防ぐには、定期的なセキュリティ研修を実施し、セキュリティ意識の底上げを図ることが重要です。
企業が取り組むセキュリティ対策については、こちらの記事で解説しています。
まとめ
この記事では、中小企業のIT予算策定について以下の内容を解説しました。
IT予算の基本と内訳
IT予算編成の課題と失敗例
効果的なIT予算配分の考え方
中小企業のIT予算は、単なる支出ではなく、投資戦略の一部として位置づけることが成功のカギです。クラウドやSaaS活用によってコスト効率を高めながら、セキュリティやDXへの配分を戦略的に行うことで、持続的な成長と競争力強化につながります。
IT予算は“守りのコスト”ではなく、“攻めの投資”です。限られたリソースを効果的に配分することで、中小企業でも大企業に負けないデジタル経営を実現できます。
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