ひとり情シスの抱える課題と対策を背景とともに解説
企業のIT戦略やシステム企画、セキュリティ管理などを担う情報システム(以下、情シス)部門は、安定した事業活動に欠かせない存在です。
しかし、企業の利益に直結する部門ではなく、現場の人材が不足していることを理由に、情シス部門のリソース確保にコストを割かない企業もあり、“ひとり情シス”につながっているケースがあります。
実際にひとり情シスが起きている企業では、「現状の体制を改善したい」「有効な対策があれば知りたい」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、ひとり情シスの課題や背景を踏まえて、対策方法について解説します。
目次[非表示]
- 1.ひとり情シスとは
- 2.ひとり情シスの課題
- 2.1.①業務量の増加
- 2.2.②トラブル対応の遅延
- 2.3.③業務の属人化
- 3.ひとり情シスが起きている背景
- 3.1.①IT人材の不足
- 3.2.②情シスへの理解不足
- 3.3.③クラウドサービスへの移行
- 4.ひとり情シスの対策方法
- 4.1.①業務範囲の明確化
- 4.2.②ITアウトソーシングの利用
- 4.3.③ツールの導入
- 5.まとめ
ひとり情シスとは
ひとり情シスとは、社内システムの構築や保守運用、IT機器の管理、社内のヘルプデスクなど、情シスが担当する業務を1~3人程度の少人数で行うことです。1人のみで担当することを意味する場合もあるため、“ソロ情シス”とも呼ばれています。
人材不足が起きている企業や従業員数が少ない企業で運用しているケースが一般的です。しかし、従業員数の多い企業でもITに関する知識・ノウハウを持つ人材が不足している場合には、ひとり情シスを採用しているケースもあります。
ひとり情シスの課題
ひとり情シスで業務を運用している現場では、担当者の業務負担が増えたり、安定した運用ができなくなったり、さまざまな課題が挙げられます。
①業務量の増加
1つ目の課題は、担当者の業務量が増加することです。
情シス部門では、IT戦略やシステム企画、セキュリティ管理などのコア業務に加えて、社内ヘルプデスク・システム障害の対応など、ノンコア業務も多く発生します。
少ない担当者でさまざまな業務対応に追われている場合、「コア業務に手が回らない」「システム障害が起きた際の対応が遅れる」といった問題につながりやすくなります。
また、担当者が情シス部門以外と兼任している場合には、ほかの業務に支障が生じる可能性も考えられます。業務量が増加する分、担当者の負担増加に直結することも課題です。場合によっては、労働基準法で定められた労働時間を超えて働く時間外労働が発生するリスクもあります。
②トラブル対応の遅延
2つ目の課題には、トラブル対応の遅延が挙げられます。特に、不正アクセスやウイルス感染など、セキュリティの脆弱性によるトラブルに適切に対応できないリスクがあります。
近年、テレワークの普及によって、外部のネットワークを経由して社外から社内のシステムにアクセスする機会が増えました。これにより、必要なセキュリティ対策の範囲が広がっています。
ひとり情シスで運用していて業務が煩雑になっている状態では、セキュリティ対策が手薄になります。また、少ない担当者でトラブル対応の体制が整っていない場合、迅速な対応を実現するのが困難な点も課題です。
③業務の属人化
3つ目の課題は、情シス業務の属人化です。
ひとり情シスの現場では、少人数で対応しているため、業務が属人化しやすくなるといった課題もあります。このような環境下では、担当者が不在の場合にシステム管理やトラブル対応が難しく、業務が停滞する可能性があります。
また、担当者が離職すると、後任への引き継ぎも問題です。情シス業務に関する情報共有やノウハウ蓄積がされていない場合には、後任への引き継ぎができなくなり、情シス業務の運用が困難になることも考えられます。
ひとり情シスの属人化リスクについては、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
ひとり情シスが起きている背景
ひとり情シスが起きている背景には、以下の3つが考えられます。
①IT人材の不足
ひとり情シスが起きている背景には、IT人材の不足が挙げられます。
総務省の『令和3年度 情報通信白書』によると、現在、国内でIT人材が不足しており、「大幅に不足している」「やや不足している」企業が約9割に達している状況です。
専門的な知識・技術が求められる情シス業務を担えるIT人材を十分に確保できないことから、ひとり情シスが起きていたり、ほかの業務との兼任によって実質的な“ゼロ情シス”になっていたりするケースがあります。
出典:内閣官房『デジタル人材の育成・確保に向けて』/総務省『令和3年度 情報通信白書』
②情シスへの理解不足
経営者層が情シス部門の重要性について深く理解していないことも、ひとり情シスが起きてしまう背景として考えられます。
情シス部門は、社内のシステムやIT設備を安定稼働させる役割を担っており、事業活動に欠かせない部門です。しかし、利益に直結する部門ではないため、十分な予算・人員を充てることに経営者層が消極的になるケースがあります。
その結果、情シス部門の人材採用・育成が進まず、ひとり情シスの継続につながっています。
③クラウドサービスへの移行
ひとり情シスが起きている背景には、クラウドサービスへの移行が進んでいることも挙げられます。
近年、従来のオンプレミス型やパッケージ型で利用していた社内システムをクラウドサービスに移行する動きが見られています。クラウドサービスでは、システムの保守運用をベンダーに任せられるため、日常的なサーバー管理やメンテナンス業務にかかる労力を削減することが可能です。
しかしその結果、「情シスが担う業務量が削減された」と錯覚して情シス部門に充てるリソースが削減されてしまい、ひとり情シス化につながっているケースがあります。
ひとり情シスの対策方法
ひとり情シスの課題を解決するには、業務の範囲・方法を見直して効率化を図ったり、ITアウトソーシングなどの外部のリソースを活用したりすることが有効です。
具体的な方法に、次の3つが挙げられます。
①業務範囲の明確化
ひとり情シスで業務量が増加して「コア業務が圧迫されてしまう」という状況を解消するには、業務範囲を明確化することが重要です。
情シス業務の範囲拡大や、社内からの問い合わせ対応の増加が起きると、限られたリソースですべての業務を遂行することは難しくなります。
情シス部門で対応できる業務範囲を明確にすることで、ノンコア業務の負担を減らせるようになります。
▼情シス部門の業務範囲例
業務範囲 |
詳細 |
コア業務 |
|
ノンコア業務 |
|
また、会社の意思決定を必要としない・定型業務については、ITアウトソーシング化を検討し、コア業務を中心とした情シス部門として整備することが有効です。
▼情シスの業務量を削減する取り組み例
- 情シス部門の業務範囲を一覧化して、範囲外の業務は各部門で対応を促す
- 社内マニュアルやFAQ(Frequently Asked Question:よくある質問)を整備して、自己解決を促す
- 研修や勉強会を実施して、各業務部門のIT知識・スキルの向上を図る
②ITアウトソーシングの利用
1人の担当者で対応しきれない情シス業務については、ITアウトソーシングを利用することも一つの方法です。
情シス部門に投入できるIT人材がほかにいない場合にITアウトソーシングを利用することで担当者の負担を削減できるほか、効率的な運用が可能になります。情シス担当者を新たに採用したり、既存の従業員を育成したりするよりも、コストを抑えられる場合もあります。
ITアウトソーシングを利用する際は、自社の課題を踏まえて、どこまでの情シス業務を委託するのか業務の切り分けを行うことがポイントです。
なお、情シスのITアウトソーシングのポイントについて、こちらの記事で解説しています。併せてご覧ください。
③ツールの導入
定型業務や負担の大きい業務には、ツールを導入して自動化・効率化を図ることが有効です。情シス業務の一部を自動化して、担当者の労力を削減することで、コア業務に注力できるようになります。
▼情シス業務の自動化に役立つツール
ツール |
説明 |
RPA(Robotic Process Automation)ツール |
システムの障害検知やデータ分析、システム設定などを自動化できる |
FAQツール |
よくある質問に対する回答を登録して、ユーザーが検索できる |
チャットボット |
自動でメッセージのやり取りができる |
RPAツールを導入すると、パソコンを使用する定型業務を自動化できます。FAQツール・チャットボットを導入すれば、システムの使用方法を知りたいときや、エラーが発生したときなどに、従業員の自己解決を促すことが可能です。
まとめ
この記事では、ひとり情シスについて以下の内容を解説しました。
- ひとり情シスの意味
- ひとり情シスが抱える課題
- ひとり情シスが起きている背景
- ひとり情シスの対策方法
社内の情シス業務を1人の担当者が行う“ひとり情シス”では、業務量が増加して負担が大きくなるほか、セキュリティ対策が脆弱になる、属人化につながるなどの課題があります。
このような課題を解消するには、担当者が担う業務範囲を明確にするとともに、ITアウトソーシングを利用する、ツールを導入して自動化・効率化を図ることが有効です。
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